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January 15, 2012

ヒミズ

 私の今年1位圏内の映画がでました。

 園子温監督の映画は観るのに勇気がいる。
 あれだけ、血反吐はくシーンが多い映画だけれどなんか乾いた血なので、怖いものが苦手な私でもそこんところは大丈夫なのだが、心の中にこれでもかぁとなだれ込んでくるので、怖いのだ。いつもよりも、映画に入らないように入り込まないように、身をかがめて観てしまう。
 いつもの園子温監督の表現が映画の中に出てくると、大丈夫か私、ちゃんと第3者でいるか私と、映画を離れて思ってしまう。でも、終わりには涙が止まらず、どっぷり入り込んでしまうのだ。

 映画は、一人の少年がろくでもない両親よりもまともな大人になりたいと切に願いながら、結局は大人はそんなこと許してくれないって話で、巻き込まれていくのだが、その彼に興味を持つ同級生が、自分と同じ世界から未来に進むように手助けしていく、まだ中学生なんだから、いくらでもやり直せる、未来は広がっているという話なのだ。園子温映画常連のフルキャストで、冷たい熱帯魚のまま撮影が始まったような布陣だ。
 3月に起こった震災が織り込まれているので、原作とは設定がかなり異なっているようだ。

 いっぱいいっぱい、映画を観ながら、登場人物の奥行きを想像させてもらった。人間は、面白い生き物だ。そのままの言動は気持ちとは異なっていることが大人になると増えてくる。
 酔っぱらって、息子におまえは死んでいたら良かったんだというこの父親は、全部自分に言っている言葉なのだ。もうあるはずはない保険金を取りたいから、おまえ死ねとやってくる。大人は嘘つきだが、子供は嘘つきが育っていないので、狭い自分の世界から、全部自分のせいにして受け取ってしまう。
 中学生は、義務教育で親の庇護下にあり、まだ親が全世界の支配者のままで、その中で親を否定して否定して、自分の存在をアピールする。高校生になると、独立して一人で生きていくことも出来るので、世界は大きくなっていき、親が世界の支配者ではなくなる。親への否定と思慕が混在する中学生だから、園子温監督が面白いように動かせたのかもしれない。
 主人公住田が煩いと否定していた茶沢の存在も面白い。首つり台の演出は、彼女の環境を3分でわかりやすくするためとも思うけど、園子温色が出過ぎていて、ちょっと引いてしまった。蝋燭も雨も園子温色だなぁ。
 茶沢が自分と同じ世界に住む住田が、普通でいいと一人変わった世界に生きているのに興味を持ち、神聖化していくのも取り上げ方がとても理解しやすい。彼女が冷静にもう一人の自分(住田)を観ているから、彼を未来に引っ張り込むことが出来たのだ。未来は、彼らや私やあなたにもいっぱい広がっている。なんて、すごいラストシーンだ。ラストシーンの王者とも言えるぐらいよかった。

 詩人の園子温監督が取り上げたヴィヨンの詩

    ミルクの中にいる蠅 その白と黒はよくわかる
    働き者か怠け者かもわかる
    健康な顔か青白い顔の区別もわかる
    全てに終りをもたらす死もわかる
    何だってわかる
    自分のこと以外なら

が強烈にあっていた。

 この映画を観ながら,友人Nを思い出した。友人Nは、この中の住田だった。私は中学生の時茶沢だったのだ。Nは中学2年生の時には、一人暮らしをしていた。色んな普通の世界があったのにもかかわらず、彼女Nの世界には普通がやってこなかった。また、主人公住田のようにおまえなんかいらないと言ってくれる親は近くにおらず、忘れられた子供として生きていた。彼女は親がいらないとした自分をいらないと思ったようで、リストカッターとして生まれ変わってしまった。誰にどういわれようが思われようが彼女の世界の中には、同級生が存在していなかったので、学校でも窓を飛び越えようとしたりした。当時の私は父親の暴力に合っていたので、同じ世界で私よりつらい思いをしている子として彼女を捉えていたから、リストカットする彼女に、高校受験をするよう説得し、遅れがちの勉強を教えていた。そして、彼女が泣きじゃくったら、
私はこんな間違ったことを言ってしまった。

きっと、私たちは幸せが分からないから、ほんの少しの幸せでも、普通の人と違ってたくさんの幸せに感じると思うよ、と。

その頃は、夢や未来しか糧がなかったのだ。
夢を見よう、夢を見よう。
でも、私の言った言葉は大きな間違いだった。
幸せを知らない私たちは、社会に出たときに見つけたものを幸せと見間違ってしまう。
友人Nは、中学校を卒業して、すぐそばにあった幸せに見えるものに飛びついてしまった。
私は未だに幸せの価値を見いだせずにいる。

この映画の茶沢が私たち二人には必要で、私は彼女の茶沢になれなかったのだ。

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